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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)1442号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

論旨は、被上告人が本件売買当時本件土地が登記名義人木村スミレの所有であつて売主たる上告人の所有に属しないことを知つていたということを前提として、上告人は被上告人より売買契約を解除される理由もなく、また代金を返還する義務もないと主張する。しかし被上告人が右の事実を知つていたということは原判決の認定しないところであるのみならず、他人の物の売買の場合において、買主は契約当時目的物の売主に属しないことを知つていたと否とにかかわらず解除権を行使し得ることは、民法五六一条の本文と但書とを対照してみれば明らかである。論旨はまた登記の公信力について云為するけれども、被上告人は登記名義を信頼して本件不動産を買い受けたのではないから、登記の公信力の問題は本件に関係ないことである。論旨はいずれも理由がない。

同第二点について。

上告人は原審において民法五六二条による解除を主張していないのみならず、仮りに上告人が同条による解除権を有するとしても、そのことは被上告人の民法五六一条による解除権の行使及びこれに基く原状回復請求を妨げる理由となるものではないから、論旨は理由がない。

同第三点について。

被上告人が売買当時登記名義が木村スミレになつていることを知つていたからといつて、必ずしも上告人の所有に属しないことを知つていたか否かは、本件の帰趨に何等関係なきこと前記のとおりである。

次に民法五六一条にいわゆる移転不能とは、絶対的不能をいうものと解すべきではない。原審認定の事実関係の下においては、本件不動産の移転が絶対不能ではないにしても、同条にいわゆる移転不能にあたるものと解して妨げない。原審の判断は正当であつて論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎)

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